この記事の要点
- エクセルは優れた道具ですが、複数人で入力する台帳や、申請・承認などの仕事の流れの管理にまで使い続けると、編集のぶつかり・版の乱立・転記ミスなどの問題が出てきます。
- 切り替えを考えるサインは5つです。当てはまる数と困りごとの大きさで、エクセルの工夫で足りるか、業務システムに移すかを判断します。
- 進め方は、業務の棚卸し→優先順位→小さく作る→データの移行→並行運用の順です。集計や試算など、エクセルの良さは残してかまいません。
脱エクセルは「エクセルをやめること」ではない
エクセル(表計算ソフト)は、個人の計算や試算、グラフ作りにとても優れた道具です。問題が起きやすいのは、得意分野を超えて、複数人で入力する台帳や、申請・承認といった仕事の流れの管理にまで使っている場合です。
脱エクセル(エクセル頼みの業務からの脱却)とは、エクセルをすべてやめることではありません。「皆で入力・更新するデータ」と「決まった流れで回す仕事」を、それに向いた仕組みに移すことです。
業務システムへの切り替えを考える5つのサイン
| サイン | よくある症状 | 放っておくと |
|---|---|---|
| 1. 同時に編集してぶつかる | 「ほかの人が開いているので保存できない」「上書きで入力が消えた」 | 入力の待ちや、データの消失が起きる |
| 2. ファイルの版が乱立する | 「最新版_修正2_確定」のような名前のファイルが並ぶ | どれが正しいか分からず、古い数字で判断してしまう |
| 3. 転記のミスが起きる | 同じ内容を、別のファイルやシートに手で写している | 請求や在庫の数字の誤りにつながる |
| 4. 作った人しか直せないマクロ | マクロ(自動で処理するプログラム)の中身を誰も説明できない | 担当者の異動や退職で、仕事が止まる |
| 5. 集計に時間がかかる | 毎月、いくつものファイルを集めて手でまとめている | 数字が出るのが遅れ、判断も遅れる |
当てはまる数を、次の目安で判断します。
| 当てはまる数 | 考え方 |
|---|---|
| 0〜1個 | エクセルの使い方の工夫(置き場所の統一、共同編集、データの入力規則)で足りることが多い |
| 2〜3個 | 困りごとの大きい業務から、一部をシステムに移すことを考える |
| 4〜5個 | 業務システムへの切り替えを、計画を立てて進める時期 |
データの入力規則は、セルに入力できる値の種類をドロップダウンのリストなどで制限する、エクセルの機能です。数が少なくても、請求や給与のように誤りの影響が大きい業務なら、早めの検討をおすすめします。
4つの選択肢を比べる
| 方法 | 向いている場面 | 注意すること |
|---|---|---|
| クラウドの表計算(Microsoft 365 の Excel、Google スプレッドシートなど) | 今の表を生かしたまま、同時編集と版の乱立をなくしたい | 入力の決まりや権限の細かい管理は、表計算でできる範囲にとどまる |
| ノーコードツール(プログラムを書かずに業務アプリを作る道具) | 台帳や申請の流れを、現場で素早く形にしたい | 複雑な計算やほかのシステムとの連携で行き詰まることがある。作った人だけに頼らない決まりが要る |
| パッケージ製品(会計・販売管理などの既製品) | 業界で共通の業務を、製品の標準のやり方に合わせられる | 自社のやり方との違いを、業務の側で合わせる必要がある |
| 自社に合わせた開発 | 独自の業務の流れや、ほかのシステムとの連携が強みになっている | 費用と期間がかかる。何を作るかを固める手間が要る |
エクセルのまま同時編集をしたい場合は、Microsoft 365 の共同編集が選択肢になります。公式の説明では、Microsoft 365 の契約があり、ファイルを OneDrive や SharePoint Online に保存していることなどが条件です。Google スプレッドシートも、共有した相手と同時に編集でき、変更履歴から以前の版に戻せます。
1つの方法にこだわる必要はありません。日々の入力はパッケージ製品で行い、自社独自の部分だけを開発してつなぐ、という組み合わせもできます。
業務システムへの移行の進め方:5つのステップ
1. 業務を棚卸しする
エクセルを使っている業務を書き出します。次のひな形を使うと、抜けが減ります。
| 業務 | 使っているファイル | 入力する人 | 見る人 | 頻度 | 困りごと |
|---|---|---|---|---|---|
| (例)受注の管理 | 受注台帳.xlsx | 営業担当 | 営業・経理 | 毎日 | 同時に開けず、請求書への転記でミスがある |
2. 優先順位を決める
困りごとの大きさ(時間の無駄やミスの影響)と頻度で並べます。最初は、効果が大きく、うまくいかなくても取り返しがつく業務を1つ選びます。
3. 小さく作って試す
最初から全部を作らず、選んだ業務に要る最小限の機能で作ります。実際に使う人に早めに触ってもらい、画面や入力の順番を直していきます。
4. データを移行する
エクセルのデータは、そのままでは移せないことがよくあります。重複、表記のゆれ(「㈱」と「株式会社」など)、空欄、日付の書き方の違いを、移す前に整えます。重複は、例えば次の式を空いている列(B2 のセルなど)に入れ、下の行までコピーすると見つけられます。A列に同じ値がほかにもある行で TRUE になります(範囲は表に合わせて変えます)。
=COUNTIF($A$2:$A$1000,A2)>1
5. 並行運用で確かめる
月末の締めを1回はさむなど、一定の期間はエクセルと新しいシステムの両方で回し、結果を突き合わせます。問題がなければ切り替える日を決め、それ以降はエクセルの台帳を更新しないことを全員に伝えます。
エクセルの良さは残してよい
- 集計・分析:入力と保管はシステムに任せ、集計や分析は、システムから CSV(表のデータを文字で書いたファイル)で取り出してエクセルで行う形がとれます。
- 試算:条件を変えて何度も計算し直す作業は、エクセルの得意分野です。
- 一時的な作業:一度きりの集計や、個人の作業用の表まで、システムにする必要はありません。
大切なのは、正しい元のデータ(正本)を1か所に決めることです。エクセルで分析した結果を正本に書き戻さない決まりにすると、版の乱立を防げます。
生成AIが役立つ場面
| 場面 | 使い方の例 |
|---|---|
| マクロの中身を知る | マクロのコードを貼り付け、何をしているかを日本語で説明させる |
| 業務の流れを書き出す | 聞き取りのメモから、作業の手順を箇条書きに整理させる |
| 表記のゆれを見つける | 取引先名の一覧から、同じ会社と思われる書き方の違いを候補として挙げさせる |
| 試験用のデータを作る | 新しいシステムを試すための、架空のデータを作らせる |
ただし、社外秘や個人情報を入力する前に、生成AIの社内ルールと、使うサービスの設定を確かめます。また、生成AIの説明や候補は間違っていることがあります。当社の開発でも、設計やコードを複数のAIに互いに確かめさせていますが、最終的な判断は必ずエンジニアが行っています。
まとめ
- エクセルが悪いのではなく、複数人で使う台帳や仕事の流れの管理に使い続けると問題が出ます。5つのサインで切り替えどきを判断します。
- 選択肢は、クラウドの表計算、ノーコードツール、パッケージ製品、自社に合わせた開発の4つです。組み合わせてもかまいません。
- 棚卸し→優先順位→小さく作る→データの移行→並行運用の順で進め、集計や試算などエクセルの良さは残します。
当社では、業務の棚卸しから、業務システムの開発、データの移行、運用保守までを一貫してお手伝いしています。「どの業務から移せばよいか分からない」という段階から、お気軽にご相談ください。詳しくは事業内容のページをご覧ください。